『傷物語 Ⅲ冷血編』踏み込んだ過激な描写が光る完結編 - 感想

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アニメ『傷物語』第三部冷血編の感想になります。化物語へと続くこの物語の最終章では、阿良々木暦が吸血鬼という怪異に対し、どのように向き合うのかが描かれます。第三部だけ観るという方はあまりいらっしゃらないと思うので、第一、二部との比較をメインに感想を書いていきたいと思います。ネタバレありです。

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『響け!ユーフォニアム』第二期感想 ‐ 思春期の成長を描いた青春ドラマ

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    10代特有の、世の中を多少わかったようなつもりになっていながらも、やはりどこか未熟な部分がとても上手く表現されていたように思います。

    今期は三年生部員である田中明日香とその周囲の人間模様がフィーチャーされていました。冷めたふりをして周囲に興味がないように振る舞いながらも、その実自分の中の衝動に忠実な部分は、個人的にとても共感できる部分がありました。また、少し引いたような目線で人間関係に深く踏み込むことのなかった久美子が、周囲に感化されて徐々に変わってゆく過程は非常に熱くさせられました。

    アニメ特有のデフォルメはなされていますが、この作品で描かれている人物像は、誰しも子供の頃に見覚えがあるタイプのものが多いと思います。引っ込み思案で特定の友人関係に強く依存してしまう子や、特定の相手を神格化して自分の保護者のように扱ってしまう子など、人間関係の築き方にそれぞれ固有の癖を持っている子がたくさん登場します。

    彼女たちにはそれぞれ部活動を通して自分の課題を乗り越え、一人の人間として成長するためのイベントが用意されています。深夜アニメの描き方からすれば、その過程はキャラクターの「属性」が失われていくということを意味するのかもしれません。しかし、だからといってそれは決して無個性化するということではなく、むしろ記号を超えて一人の人格として確立される過程なのだといえるかもしれません。

『her/世界でひとつの彼女』AIと人間の間に恋は成り立つか - 作品の感想

her/世界でひとつの彼女(字幕版)

 人間と人工知能の恋について描いた作品です。人間とは全く違う感覚で生きる存在と心を通わせるというのは一体どういうことなのか、考えさせられる作品です。

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『そして父になる』親子の絆はどこで生まれるか - 作品の感想

そして父になる

 赤ん坊の取り違え事件を通して、親子とは何か、家族とは何かを問う作品。

 

あらすじ

 仕事上も成功を収めており、順風満帆な生活を送っていた野々宮。息子が六歳まで成長したあるとき、出産時に赤ん坊の取り違えが起きていたことを知らされる。勝ち気な自分とは異なり、おっとりした息子に不満を感じていた彼は、相手方の親子との子供の交換宿泊を通して、家族の在り方に葛藤することとなる。

 

感想

 エリート志向で負け知らずの野々宮家に対し、小さな電気店でささやかな生活を送る斎木家が対比的に描かれています。どちらが正しいということはなく、野々宮も職業人としての責任と、父親としての役割の中で苦労していたのだと思います。

 また、親である人間自身も様々な環境で育ってきており、それぞれ違った親子観を持っていることも、問題を難しくている要因なのだと思います。この映画を観た人の中でも、野々宮の人生観に共感を覚える人もいれば、反感を持つ人もいることでしょう。また、斎木の生き方に不快感を感じる人や、温かみを覚える人もそれぞれいると思います。多様な価値観と生活の仕方が生まれてきている現代だからこそ、改めて家族の在り方を問うこの作品には意義があると思います。

 子供の成長において、遺伝子が果たす役割の重要性は様々な研究で示されています。しかし、血というものはつながりの一つでしかなく、何を保証してくれるものでもありません。親子の絆というものは、一緒に生活していれば自然に出来上がるようなものではなく、親と子供が一緒に苦労しながら作り上げていくものなのではないでしょうか。

『ブルーに生まれついて』優しいジャズの音色が彩る、一人の奏者の盛衰 - 作品の感想


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 ©2015 BTB Blue Productions Ltd and BTBB Productions SPV Limited.

11月26日より日本公開となりました、映画『ブルーに生まれついて』のあらすじ、感想となります。

    本作は、ジャズトランペット奏者チェット・ベイカーの挫折と再起を描いた作品です。美しいジャズの音色が一人の人間の人生を優しく彩っています。

 

あらすじ

    薬物依存に苦しんでいたチェットですが、ドラッグの売人から受けた暴行により、歯の多くを失い、顎に後遺症を負ってしまいます。彼は楽器を満足に演奏することもできなくなり、苦しいリハビリ生活を強いられることとなります。恋人のジェーンの支えとともに、薬物の誘惑に抗いながら、チェットは再び奏者としての再起を図る。

 

以下ネタバレありの感想になります。

なお、実際のチェット・ベイカーの生涯との差異や脚色については触れず、あくまで映画の内容のみに基づいた感想となります。

 

感想 

    本作を語る上で欠かせないのが、薬物中毒に悩まされるチェットを献身的に支えるジェーンの存在です。後遺症によって屈辱的なリハビリ生活を強いられることとなったチェットですが、彼女はチェットが再び成功を収めるまで彼を励まし、気長に待ち続けます。彼女自身も女優としての成功を夢見る人間ですが、チェットを見守る優しげな瞳は、恋人でありながらも母親のように感じられました。

    ラストのシーンで、彼は大きな決断を迫られることとなります。再起をはかるための大きな舞台を目前にして、中毒症状を抑えるための薬が切れてしまい、再び違法薬物を摂取する誘惑に駆られます。

    薬物を摂取すれば最高の演奏ができると考えるチェットですが、それは同時に、これまで彼を支えてきてくれた人達を裏切ることを意味していました。目前に迫った成功と、周囲の人間との絆の間で苦悩するチェット。

 

     たくさんの大物が見守る舞台で素晴らしい演奏をしてみせたチェットですが、彼は結局、ジェーンや友人との誓いを守ることができませんでした。成功を目前にして、自分の演奏を信じ切ることのできなかった弱さによって、薬物に頼り、大切な人を失ってしまいました。

    変わることの難しさと、失われた信頼の重さが身にしみる結末でした。映画は素晴らしい演奏を最後に幕を閉じますが、彼の人生はその後も続いたのだということを考えると、エンドロールでは何とも言えない寂しさが残りました。

 

映画『セッション』狂気は全てを凌駕する - 作品の感想

セッション(字幕版)

 

映画『セッション』を観ての感想になります。ネタバレを含みますのでご注意ください。 

  • あらすじ
  • 感想 

あらすじ

 音楽学校の新入生ニーマンはスパルタ講師のフレッチャーに才能を見出され、彼のバンドに招待される。執拗なまでに完璧な演奏を求めるフレッチャーに反発しながらも、ニーマンは次第により高みを求めて、狂気の演奏の世界にのめり込んでいく。

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映画『聖の青春』ひしひしと伝わる棋士の息遣い - 作品の感想


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©2016「聖の青春」製作委員会

 11月19日より公開になりました、映画「聖の青春」を鑑賞してきましたので、感想などについて述べていきたいと思います。少々ネタバレを含みますので、ご注意ください。

  • 感想
  • 事実との相違
  • 実在棋士の出演
  • おわりに

感想

 対局中は過剰な演出を抑えて、対局者の息遣いや無意識の仕草、独特の間が伝わる素晴らしいものになっていたと思います。対局中に頭をかく仕草や扇子を鳴らす癖などは、普段から対局中継を視聴している方にはお馴染みかと思います。

 俳優陣の演技も抑えるところは抑えつつ、闘志をむき出しにして盤に向うさまは棋士の生きざまが痛いほど伝わってきました。松山ケンイチは今作のためにかなり増量をして撮影に臨んだようですが、その甲斐あってか、鬼気迫る素晴らしい演技をされていました。私は実際に故村山九段を拝見したことはほぼありませんが、きっとこんな感じの方だったんだろうなと、根拠もなく思わせるほどの説得力がありました。

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