海賊の経済学 見えざるフックの秘密 感想

 18世紀イギリスにおける海賊のありかたについて述べられている本。我々が海賊に対して抱いてる粗野で無秩序な野蛮人たちというイメージとは裏腹に、海賊たちはむしろ、当時の一般的な商船よりも民主的で分権化の進んだ組織を作りあげていたことが明らかにされている。

 当時のイギリスにおける商船では、船長による船員達への収奪が常習化していた。船員達の仕事は過酷を極め、船上という密室における彼らの待遇は、現代に生きる我々の感覚からすると思わず目を瞑りたくなるようなものだ。船長による酷い仕打ちに耐えかねた船員たちはやがて海賊稼業へと身を落とすようになり、自らの身を守るために、当時としてはかなり先進的な民主政治の仕組みを作り上げていった。

 海賊船の船員たちは、船長による強権的な支配を防ぐための仕組みとして、クウォーターマスターと呼ばれる役職を設けた。そして、その役職者達に収奪品の分配、人事権といった権限を分散化させることにより、高度に分権化された組織体制を作り出すに至った。

 このような仕組みが成立し得た要因として、海賊船においてはエージェント・プリンシパル問題、すなわち船の所有者と船員達の行動を監視する船長との間の利害の不一致が存在しなかったことが指摘されている。

 商船においては、船の専有的な所有者である船主に対し、船長は機会主義的に振る舞うような誘引があったとされている。船主の監視の目が行き届かない船上において、船長の利己的な行動を遮る要素は存在しなかったからである。

 一方で、海賊船における船の所有関係は一風違ったものであった。多くの海賊船は盗まれたものであり、したがって明確な所有権は船長や船員たちの中の特定の人物に帰するものではなく、船は船員たち皆の共有財産であると認識されていたのである。この状況下では、船員や船長は船の所有者であると同時に、船全体の利益を確保するためのエージェントでもあったのである。

 このように、本書では海賊船における、ある種奇妙な協調的行動について経済学的観点からの考察を試みている。著者は歴史学の専門家ではないということから、18世紀当時の海賊の描写について厳密に正確な描写がなされているかは微妙なところであるが、海賊という反社会的組織が極めて社会的な存在を構成しうるという視点は非常に興味深く感じられた。ミクロ経済学の初歩的な考え方を学ぶ上でも役に立つように思う。

 

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