『マンチェスター・バイ・ザ・シー』人生の悲喜こもごも - ネタバレあり感想

 主演・ケイシー・アフレックの抑えた演技と、父を亡くしながらも飄々と生きる甥を演じたルーカス・ヘッジスの演技が印象的な作品でした。

 鑑賞前の予想に反して、作品は優しいユーモアを交えながら、穏やかな空気のもと展開していきます。主人公のジョーは時折やりきれない感情をむき出しにして揉め事を起こしますが、周囲の人間の優しさが、彼がひとり孤独に浸ることを許しません。甥のパトリックは、彼女やらバンドやらとジョーを引っ張り回しますし、古い知人はジョーに救いの手を差し伸べ続けます。パトリックの繰り出すくだらない下ネタや皮肉はクスりとさせるもので、二人のやりとりを眺めているこちらとしては、ジョーの苦しみはこうして癒やされてゆくのだ、パトリックの存在が彼を救ったのだと勘違いさせられてしまいます。

 

 しかし、元妻であるランディと不意に街で出くわしたとき、彼の過去に対する深い後悔が溢れ出します。言葉では容易にその感情を表現することのできない彼は、ただ嗚咽を漏らすことしかできません。この光景を目の当たりにして、見かけばかりの穏やかな日常が、いかに無力であるかを思い知らされます。彼が抱えている傷は少しばかりの優しさで救われるものではないのだ、彼は永遠にこの苦しみと戦わねばならないのだと、思い知らされます。あまりにも些細な不注意から生まれてしまった事故ゆえに、その事件を日常から切り離すのも、彼にとっては非常に困難でしょう。

 エンドロールが流れるまでの間には、ジョーはパトリックと暮らす決断を下すことはできませんでした。自分に子供を育てる資格がないという考えは、それほどまでに強いものだったのでしょう。しかし、彼は以前よりも少しだけ人に歩みよることを肯定できるようになりましたし、二人が再び出会ったことは、お互いの人生に僅かであっても好い影響を与えたには違いありません。

 容易な起承転結によって物語を完結させるのではなく、ジョーと周囲の人間の人生が可笑しさと苦悩にあふれながら、これからも続いていくのだということを表現する終わり方であったと思います。

 

 人の苦しみがいかに見えづらいものであるか、孤独を理解するということがいかに困難であるかを実感させられるとともに、そういった努力の尊さも同時に感じさせる印象深い作品でした。