映画『美しい星』謎だらけの複雑な作品 - 感想(ネタバレあり)

 当たらない気象予報士として有名な父。大学卒業後、フリーターとして冴えない日々を送る兄。大学内で孤立し、自分の美しさを持て余す妹。自己肯定が難しい彼らが、現実逃避の手段として利用したのが、自分が宇宙人だという設定でした。

 本作は自らを水星人だやれ金星人だと語り、自らも地球で暮らす当事者であることを忘れている彼らを表現することで、上から目線で環境や世界が抱えている問題について語ることに対し、警鐘を鳴らしているのではないかと考えられます。作中で黒木が語っているように、自然について距離をとって語る人間自身も自然の一部なのであり、まるで他人事のように環境について語ることは非常に違和感を覚える行為と言えるでしょう。

 

 一方で、家族4人のうち、母親だけは自身が宇宙人などとは考えることなく、地球人として日々を生きています。そしてしょうもないミネラルウォーターのマルチ商法に手を出します。扱っているミネラルウォーターが貴重な天然水であるというのは嘘だと発覚するわけですが、これによって彼女は自然を自らの都合よくビジネスに悪用する手法に触れることになりました。彼女は自然を悪用するビジネスに加担しつつも、その醜さを肌で体感する役割を担っているのだと思われます。他の家族が一歩引いた視点から人類の行いを批評しているのに対し、彼女だけは当事者として、地球人としラストシーンまで生き続けます。

 

  ところで、議員秘書を務める黒木の存在はどう捉えてよいのかが難しいところです。彼が持っていたスイッチは単なるおもちゃのようでしたが、彼が本当に水星人であるという可能性は捨てきれません。彼がスイッチを押したのは、既に環境問題は現実のものとして起こっており、すぐにアクションを起こさなくてはならないことを示していると思われます。しかし、彼のデモンストレーションがただの思い込みなのか、何らかの高度な知識に基づいた根拠あるものなのかは分かりません。彼の存在は本作最大の謎と言えるでしょう。

 

 黒木の正体に関しては鑑賞者の判断に委ねられるところですが、父兄妹の三人は地球人であり、自分が異星人であるというのはただの妄想なのだろう、というのが作品終盤まで観賞された方の大方の考えでしょう。しかし、ラストシーンでこれまでのストーリーが盛大にひっくり返されます。

 父親が実際に火星の宇宙船に乗り込み、そこから遙か遠い地球の家族を眺めているというどんでん返しがやってきます。三人が宇宙人であるというのは思い込みに過ぎない、というのがこれまでの流れでしたが、一転して本当に宇宙人であるという可能性を示唆するシーンに、観賞者は完全に置いてけぼりをくらいます。

 他の家族が宇宙人であるというのは思い込みに過ぎないのかもしれませんが、思い返してみると、異星人とのファーストコンタクト(と三人は思い込んでいる)シーンにおいて、父親だけは田んぼのど真ん中に突き刺さっているという合理的な説明が難しい状況にあったわけです。あれが火星人の仕業であるというのは否定できず、彼が繰り返し用いていた謎のポーズも、火星人との立派な交信手段だったのかもしれません。

  

 複雑な構造を持っており、なかなか理解することが難しい本作ですが、製作者が意図的にそのようにしたのであろうことは推測できます。鑑賞者の解釈の仕方によって如何様にも楽しめるという点が本作の魅力かもしれません。